あとは野となれ山となれ

たいせつなことは目には見えないんだよ・・・

本・動画感想

映像も物語も美しい『ロンドン、人生はじめます』

またまた大ベテラン女優の楽しい映画に出合った。今度はダイアン・キートン。2017年の作品なので、撮影時彼女は71歳だけれど、実にチャーミングで、カジュアルながら知性の香るファッションを素敵に着こなしている。 相手役を務めるのは、『ハリー・ポッター…

大女優のパワーを楽しむ『ザ・プロム』

昨夜はネットフリックスで映画『ザ・プロム』を楽しむ。レズビアンの高校生が、ただ好きな相手とプロムに行きたいだけなのに、保守的な考えのPTAの妨害にあってプロムは中止になってしまう。悲しむ彼女のTwitterをたまたま見つけた落ち目のハリウッドスター…

厳しく強い愛の姿『二十五年後の読書』乙川優三郎著

先日読んだ『この地上において私たちを満足させるもの』と対をなす作品である。 hikikomoriobaba.hatenadiary.com この作品が2018年の10月に出版され、『この地上・・・』が同年の12月に出版されている。しかもこの作品の中で、主要登場人物である作家の三枝昴…

男性版おらおらでひとり・・・『オジいサン』京極夏彦著

60歳で会社を定年退職した益子徳一の、72歳と6箇月の1日目から、72歳と6箇月と7日までの7日間を描いた物語である。その7日間に、別段変わったこと素晴らしいことがあったわけではない。どこにもいそうな年寄りの、どうということもないような毎日の中で…

一冊丸ごと「ギフト」の『蜜蜂と遠雷』恩田陸著

へそ曲がりな私は、何であれ巷で大きな話題になっているときはそっぽを向いていることが多い。大変な話題を呼んだ『蜜蜂と遠雷』だったが、受賞から1、2年経った頃そろそろ読んでみようかと思い図書館のサイトで調べると、その時点でもまだ80人くらい待っ…

一冊で一日の物語と三十年の物語

先日恩田陸さんの『夜のピクニック』を読み終わり、今日乙川優三郎さんの『ロゴスの市』を読み終えた。どちらも楽しい読書だったのだけれど、考えてみれば対照的な作品だった。 かたや342ページを費やして高校3年生の「鍛錬歩行祭」の一日を描き、かたや261…

まさにゲームを楽しんだ気分『ゲームの名は誘拐』東野圭吾著

現在放送中のテレビドラマは早々と脱落してしまったが、東野圭吾さんの小説ではあまりはずれだったことはないように思う。この作品も、久々の推理小説だったこともあり、夢中になってあっという間に読み終えてしまった。 広告会社の敏腕クリエイター佐久間は…

かっこいい男たちの物語『地の蛍(蛍は旧字)』内海隆一郎著

素朴なタッチの装画が物語を象徴している。舞台は岩手県、会話文の大半は朴訥とした東北弁である。昭和15年から20年までの、戦争を背景にした物語だ。 国情は徐々にひっ迫してきて、それまで燃料としては見向きもされなかった亜炭が重要な資源として脚光…

『この地上において私たちを満足させるもの』乙川優三郎著

深い感動と余韻に包まれて本を閉じた。物は増やさない、本も増やさないと思っているのに、この本はぜひ蔵書に加えたい気がする。 主人公は高橋光洋。本名はミツヒロであるが、親しくなった人は愛情を込めてコウヨウと呼ぶ。実家は東京の下町で小さな食堂を営…

あったかいココアと『それからはスープのことばかり考えて暮らした』

雨が舗装を叩く音が部屋の中まで聞こえてくる。おまけに寒い。こんな日は、体も心もぬくめてくれる、あったかいココアを飲みたくなる。 ほぼ一年中ホットコーヒー党の私だけれど、寒い季節だけは時々ココアをはさみたくなる。私にとって忘れられないココアは…

ささくれがちな心に甘酒のような物語『たまちゃんのおつかい便』森沢明夫著

この著者の作品は初めて読んだのだが、映画化された『津軽百年食堂』や『ふしぎな岬の物語』を書いた方だった。『津軽百年食堂』は、映画公開時に、もしかしたら弘前のあの食堂がモデルだろうか・・・などと考え興味がわいたことを覚えているが、結局映画も観ず…

血を吐くようなパイオニアの姿を描く『緋の河』桜木紫乃著

『ホテルローヤル』で直木賞を受賞した桜木紫乃さんが、同じ釧路市出身のカルーセル麻紀さんをモデルにして書いた長編小説。2017年から2019年に新聞5紙に連載された作品だそうだ。 いまLGBT問題が非常にクローズアップされているけれど、1942年生まれのカル…

あったかいものに包まれる『呼んでみただけ』安東みきえ著

書棚に並んだ『呼んでみただけ』というタイトルに、なぜか目が留まった。取り出してみて、やさしい表紙に一目ぼれ。迷わず借りることにした。 装画と挿絵は藤本将さんというイラストレーターの方。 お話を作るのが上手なやさしいママが、お話を聞くのが大好…

全身翻訳家(自称)鴻巣友季子さんの随筆『やみくも』

表紙のワンちゃんが可愛らしくて、思わず手に取った。本文中にも、この可愛い絵を描くイラストレーターさげさかのりこさんの挿し絵がふんだんにあって、軽妙な文章とともに大いに楽しませてくれる。 まずは表紙に惹かれての読書だったが、文章も非常に楽しい…

素敵な人をお手本に・・・

昨日ベランダの簾を片付けたら、今日は久々に冷房を必要とする暑さがぶり返した。とかく人生はこういうものだ。 一昨年の入院時に、長男の連れ合いがプレゼントしてくれた本、西村玲子さんの『玲子さんののんびり老い支度』を先日またぱらぱらと見ていたら、…

この世界にアイは存在するか『i(アイ)』西加奈子著

「この世界にアイは存在しません」。高校の数学の最初の授業で教師の言った言葉が、その後ワイルド曽田アイの頭の中に響き続ける。 アイにはアメリカ人の父ダニエルと、日本人の母綾子がいる。アイ自身はシリアに生まれ、ハイハイを始める前に両親のもとにや…

DVD『この声をきみに』を買う

3年前の秋のドラマ『この声をきみに』。群読の素晴らしさに感動し、以前のブログで紹介した。 yonnbaba.hatenablog.com 中心となる舞台の朗読教室が、インテリアも落ち着いていてくつろげる素敵な家だ。録画して観ていたので全話保存しておけばよかったのだ…

ついに時代が彼らに追いついた『間宮兄弟』江國香織著

間宮兄弟なら、自粛生活が何か月に及ぼうとも、きっとビクともしないだろう。プロ野球は無観客でも、テレビでしか観戦しないのだから痛くも痒くもない。万が一プロ野球が開幕しなかったとしても、彼らには読書があり、DVD(小説内ではまだビデオだが)があり…

93歳のホームズと少年『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』

夜中の映画でまた掘り出し物。76歳のイアン・マッケランが、60代と93歳のシャーロック・ホームズを演じ分けている。 30年前に探偵業を退き、今は海辺の田舎町で静かに養蜂に楽しみを見出して暮らすホームズ。身の回りの世話はメイドのマンロー夫人がしている…

成長と命について考えさせられる『キップをなくして』池澤夏樹著

いつもなら、ちょうど子供たちが夏休みの宿題にラストスパートをかける頃だろうか。読書好きな高学年の子なら、読書感想文に恰好の本かも知れない。コロナで余り出歩けない今、旅行好きなら、この読書で北海道を旅した気分になるかもしれないし、鉄道好きな…

60年の時を隔てて考える『彼女に関する十二章』中島京子著

主人公は50代初めの主婦宇藤聖子。夫は小さな編集プロダクションを経営し、ペンネームで雑文業もしている。哲学を学ぶ一人息子の勉は、この4月から家を離れ、関西の大学院に進み、久々の夫婦二人暮らしの日々だ。 聖子は、夫に新たに来た仕事の関係から、60…

こういうミステリーもあったか!『千年の黙(しじま)』森谷明子著

第13回鮎川哲也賞受賞作。源氏物語の作者藤式部(『源氏物語』が世の中に流布するにつれ紫式部と呼ばれるようになった。本作中では「前式部丞の息女」とか「藤式部」と呼ばれている)を主人公に、彼女に仕える女童「あてき(成人すると小少将)」を狂言回し…

理想の生活『ビトウィン』川上健一著

著者の川上健一さんは青森県十和田市の県立十和田工業高校を卒業、高校時代は野球部で投手として活躍し、プロ野球選手を目指していた。二十歳前後まで漫画以外の本は読んだこともなく、自分は机に向かう仕事には向かないと思っていたと言う。 そんな川上さん…

動物もヒトも哀しい・・・でも面白い!『動物のぞき』幸田文著

先日の青木玉さんの本で、幸田家が動物好きだということを知り、この本に興味を持った。確かに、幸田さんの深い動物愛の伝わってくる本だった。ベタベタした愛情安売りの文章ではない。むしろからりとして適度な距離を保ち、冷静に書いているのだけれど、そ…

静かな流れのように・・・『スウィート・ヒアアフター』よしもとばなな著

気付いた時、小夜は自分のお腹にぐさっと鉄の棒がささっているのを見て、自分は死ぬんだと思った。そうして、自分は死んでもいいから、どうか洋一がぶじでありますようにと願った。 遠距離恋愛をしている二人は、洋一の車でくらま温泉に行き、彼の住まい兼ア…

8年前のぼんくらによる感想『ぼんくら』宮部みゆき著

梅雨の晴れ間。青空が嬉しい。 今日は8年前に綴った読書記録を、スターが一つもないのをいいことに再掲。読み返してみると、随分文章の雰囲気が違っていて自分でも驚く。敬体で書いているのも影響しているのかも知れないけれど、なんだか拙く(今だって拙い…

古き良き日本を味わう『手もちの時間』青木玉著

ものを書く人、とりわけ厳しい姿勢で書く人たちのそばで育ち、自分は文を書くこととは縁が無いと思って暮らしていた玉さん。いつしかやっぱり書く人になってしまった。周りが放っておかないし、書けばたちまち芸術選奨などとってしまう。 これはその芸術選奨…

意外な黄門様像と私好みの主人公『いのちなりけり』葉室麟著

読み始めてしばらくは、誰が主人公なのかも分からない。次々さまざまな人が登場し、しかも時代物のことゆえ、名前が何度も変わったりするからさらにややこしい。翌日読み始めると、あらこの人はどういう人だったろう・・・と前の方のページを繰る始末で、前半は…

軽くて爽やか『素敵な日本人』東野圭吾著

世の中は全然爽やかではないが、東野圭吾さんの9つの短編集『素敵な日本人』は軽く楽しく読めるものばかりだった。 ちょっと星新一さんのショートショートを思わせる雰囲気のものもあり、ミステリーとしては軽すぎてもの足りないと感じるファンもいるかもし…

荷を負いながらも飄々と生きる『まほろ駅前多田便利軒』三浦しおん著

何年か前に、夜遅い時間のドラマでやっているのを何回か見たことがあり印象に残っていたので、読んでいる間ずっと、脳内では瑛太さんの多田と松田龍平さんの行天(ぎょうてん)が活躍していた。 ドラマのほかにコミックや映画にもなっているので、ご存じの方…